【新刊紹介】アケルケ・スルタノヴァ著『核実験地に住む――カザフスタン・セミパラチンスクの現在』

 見本が届きました!

 

核実験地に住む――カザフスタン・セミパラチンスクの現在

核実験地に住む――カザフスタン・セミパラチンスクの現在



 この度、アケルケ・スルタノヴァ著『核実験地に住む』を刊行することになりました(7月18日発売予定)。、一橋大学大学院提出の修士論文の書籍化です。

 実はアケルケさんと初めて会ったのは、2008年の大学のゼミでのこと。その頃は、彼女の出身地のカザフスタンアフガニスタンなどと区別できなかったばかりか(当時はよく冗談で、「映画『ボラット』の国」と言われていました)、彼女の研究の話を聞いて、日本以外にも被ばく者がいるということは、そのとき初めて知った気がします。



 ソ連の構成国であった1946年から1989年にわたり、カザフスタンセミパラチンスク核実験場では秘密裏に456回もの核実験が行われました。国民的な反核運動によって実験場は閉鎖されましたが、現在も国内には120万人の被ばく者がいると推定されています。

 著者のアケルケさんは、1983年セミパラチンスク市(現セメイ市)生まれ。2000年にNGOの招きによって広島の高校に1年間留学し、その後、大学院の研究として、同地域に今も住む人々への聞き取り調査を行なうようになりました。彼女も現地出身者であることから、密かに繰り返される中絶や、性的不能を苦にした男性の自殺、当時ソ連によって意図的に被ばくさせられ実験台とされた住民などについても、多数の証言を集めています。




 彼女が日本語訳に協力した、現地の反核運動の曲「ザマナイ」は、広島などを中心に日本でも聴かれるようになりました。

カザフスタンの国民的歌手・ローザ・リムバエワによるカザフ語ver.)

(日本語ver.)




 今回、ブックデザイナーの東京図鑑・鈴木様が、約80 人の住民への聞き取り調査の中から印象的なインタビューをカバーにデザインとして配置してくださいました。そのうちには、

(…)母の話によれば、彼女の村で奇形児が多かったので、「この村の女性には呪いがかかっている、だから元気な赤ちゃんは生まれない」と言われていたそうです。それは昔の人は核実験の悪影響について知らなかったからです。そのため、障害を持って生まれた子どもの母親はいつも罪悪感を持っていました。私が初めて妊娠したときに母から電話がかかって来て、「悪い夢を見たので、その子どもは産まないで」と言われました。母の、このような言葉に驚きました(…)。 (女性、1967 年生まれ)

のような衝撃的な内容も含まれます。




 2017年にICANノーベル平和賞授賞式でも「セミパラチンスク」という地名は触れられています。

私たちは、この恐ろしい兵器の開発と実験から危害を被った世界中の人々と連帯してきました。(核実験が行われた)ムルロア、エケル、セミパラチンスク、マラリンガ、ビキニといった長く忘れられた地の人々。土地と海を放射線にさらされ、人体実験に使われ、文化を永遠に破壊された人々と連帯してきました。

 しかし、セミパラチンスク核実験場については、まだ日本でも知られていないと思います。




 著者の目標は、広島や長崎で行なわれてきたように、核のない世界を実現するために、被ばく者の証言を、カザフスタンの遺産として保護することであるといいます。
 今回の書籍は、著者が自ら日本語で執筆しました。現地の方々に託されたメッセージを、ぜひ多くの方に知ってもらいたいと思っております。ぜひご高覧ください。


(山口)