地域の未来をコンビニ・フランチャイズに託して

12月新刊の参議院議員姫井由美子著『コンビニ改造論』は、弊社が以前からテーマとして追求してきたコンビニ・フランチャイズ問題――本部とオーナーの不均衡な力関係から生じる様々な問題を、政界から取り組んでいる姫井由美子先生にまとめていただいた一冊です。宇都宮健児先生(日弁連会長)との対談が収録され、山口二郎先生(北海道大学教授)にオビ文をいただくなど、顔ぶれも豪華な本に仕上がりました。

この本の最初の打ち合せをしたのは2010年の5月だったように記憶しています。担当として1年半以上もの間、先生に伴走してきましたが、私は先生に対し、編集者としてお付き合いさせていただいた部分と、いち有権者として「政治家というのはこんな仕事なんだ」と思いながら接してきた部分があります。

まず編集者の視点でこの仕事を振り返ると、これほど構想案に時間をかけ、何度も練り直したことはなかったように思います。今回の本では原稿執筆以前の構想案について、先生と秘書の方、私の3人で何度も徹底的に議論を行いました。議論の中で見えてきたのは、先生のコンビニ問題に対する独自のスタンスでした。社会問題を扱った本の場合、「敵と味方」をはっきりさせ、被害者の立場から告発していく方法論を採用すれば、わりとブレることなく説得力のある論旨を展開することは可能です。しかし姫井先生は、加盟店だけでなく本部や行政も巻き込んでいかなければこの問題に解決はないという確信をお持ちでした。そこで単に問題を告発するだけでなく、コンビニ・フランチャイズのあるべき姿を提示し、そのビジョンと現実のギャップを埋めていく方策としてコンビニ問題を取り扱っていこうという方針が次第に共有され、すでにある学者やジャーナリストの手によるコンビニ問題本とは違った、姫井先生ならではの本にしていこうということになりました。

最初に執筆していただいたのは「序章 コンビニ問題との出会い」なのですが、この原稿が上がった後、あの3・11大震災が発生しました。未曽有の大惨事となった3・11とその後の復興活動を通じて、姫井先生から「今回の本に『日本人の働き方』をテーマに加えたい」とのご提案がありました。以前から取り組んでいる過労死問題ともリンクさせ、働くとはどういうことか、ひいては幸せとはどういうことかをテーマに盛り込みたいということです。私としては、長い議論を経てやっと原稿がかたちになってきたのに、この段階で論点を広げるのは正直反対でした。しかし姫井先生の強い意志と、あの3・11を経た前後で出版する本の内容に変化がないのは「自由な発想で同時代をとらえる」という自社のモットーからしてもおかしいと私も思い直し、議論を重ねてきた構想の練り直しを行うこととしました。この本の特に2章と4章は、3・11以降の社会情勢を色濃く反映した内容になっています。

もう一つ、いち有権者として現役の国会議員とお付き合いさせていただいたことを振り返ると、姫井先生のコンビニ問題に対する取り組みに、いささか失礼な表現になるかもしれませんが、応援したくなる、そうせずにはいられないという気持ちを抱くものです。
現在日本には700人以上の国会議員が存在します。ですがその中で、「私は任期中にこの課題に取り組みました」と胸を張って言える政治家が、一体何人いるでしょうか。もちろん各々の先生方が、地元や支援者の意向を受けてあらゆるテーマに取り組んでいらっしゃることと思いますが、残念ながらその仕事を多くの有権者は知らないままです。姫井先生がこの本の中で主張され、宇都宮先生が対談の中で指摘されているように、問題の当事者だけでなく関係者すべてを巻き込み、マスコミともうまく付き合って世論を高めていかなければ、社会問題を解決することはできません。そしてその過程において、政治家には問題を世の中に知らしめるスポークスマンの役割が求められると思うのですが、まさに姫井先生はこの出版を通じて、その役割を任じていらっしゃるように思います。

なによりこの仕事で印象に残ったのは、姫井先生の天真爛漫なお人柄と、そのお人柄が作り出す磁場の力です。コンビニ加盟店ユニオンに発展したコンビニオーナーの方々はじめ、多くの方が姫井先生の存在がなければ出会うこともなく、運動も生まれなかったように思います。姫井先生はこの本の中で、自分のやりたいことではなく、市民の方のやりたいことの実現の手助けをするのが政治家の役割であるとおっしゃっていますが、まさに姫井先生の周りには、今の状況を変えて、この世の中が暮らしやすいものになるよう懸命に取り組まれている方が大勢集まっています。先生の気さくなお人柄と軽いフットワークに、「この人に相談すれば力になってくれるはずだ」と皆さんが思っていらっしゃるのでしょう。
私は700人以上いる国会議員すべてが、凡人から卓越した能力の持ち主で、強いリーダーシップを発揮する必要はないと思いますし、そうでなければ成り立たない国はむしろ不幸であると思います。集団をぐいぐい引っ張っていくリーダーシップもある一方で、その人が集団に加わることでメンバー各人のパフォーマンスが上がり、結果として目標を達成できるようなリーダーシップもまたあると思いますし、3・11以降、むしろそういったリーダーシップが求められているように思います。卑近な例になりますが、私自身、姫井先生の作り上げる磁場に吸い寄せられた一人です。先生と企画の方向性が合わず意見が食い違ったこともありましたが、結果的に非常に達成感のある1冊になったように感じています。それはまた私も、姫井先生と関わることによって、自分が思っている以上の仕事ができたからだと思っています。

先日この本の出版記念会が行われたのですが、そこには多くのコンビニオーナーの方が、多忙の間を縫って駆けつけておられました。オーナーの方がおっしゃった次の言葉に、姫井先生がどういう政治家であるのか、見事に表現されていると思います。
「今まで多くの議員にこの問題を相談してきた。しかしどの議員も、『わかりました、何とかします』と言ってくれるが、結局何も行動をとらない。実際に動いてくれたのは姫井先生ただ1人だった」

ぜひ多くの方にこの本を手にとっていただき、コンビニ問題の現状を知り、地域活性化のためにわれわれ1人ひとりが何をするべきか、また、働くことを通じてどのように世の中と関わっていくのか、考えるきっかけにしていただきたいと思います。
(佐藤)