『報道の正義、社会の正義』の刊行記念トークショー

去る1月24日金曜日、MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店さんで、12月に発売された新刊『報道の正義、社会の正義』の刊行記念トークショーが開かれました。

まずはご登壇くださった原寿雄さん、著者の阪井宏さん、企画を主催してくださったMARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店さんとご担当の関根さん、そして何より当日会場においでくださった皆様に、改めてお礼申し上げます。
本当にありがとうございました。

当日は『報道の正義、社会の正義』の内容をベースとし、ジャーナリズムのあり方について、新聞記者を経て現在は大学で教鞭をとられる阪井さんと、日本の言論・報道界のご意見番ともいえるジャーナリスト・原さんがフランクに語り合うものでした。
最初はインフルエンザからの病み上がりで調子の上がらなかった阪井さんも、原さんの確固たる信念に貫かれた鋭いご発言の連続に導かれるように様々なエピソードを披露され、最後は原さんの熱いメッセージに、会場全体が背筋の伸びるような空気に包まれました。

そもそもこの本、阪井さんの教える学生さんからの3.11報道に対する素朴な疑問に端を発する企画です。
「どうしてマスコミの取材ヘリは、SOSを発する被災者を助けないのだろう――」
この人として当たり前の感覚に基づく疑問は、長い間報道の現場に従事し、ジャーナリストとしてどうあるべきかを自らに問い続けてきた阪井さんにとって、大いに考えさせられるきっかけとなったそうです。
そして何より、そういった世間の常識と報道の現場の常識にズレが生じるような事態に対し、マスコミ側は今まで説明を怠ってきたのではないか……そういった反省が、今回の本の出発点にあったといいます。
議論をより深いものにするため、阪井さんはジャーナリズムの生き字引ともいえる原さんのもとに通い、同様に報道の現場で判断に迷うようなケースについて徹底的に意見を交わしました。
そうした成果が一冊の本に結実したのが、本書『報道の正義、社会の正義』です。
ですのでこの本には、原理原則をあてはめて安易に答えが出るような問いかけは一つもなく、考えれば考えるほど答えに迷うような、ある意味極限的な状況ばかりが議題となっています。
それゆえに、ジャーナリズムを志す学生の方、現に報道の現場で活躍されている方にとっては、必読の内容に仕上がっていると思います。

師弟関係ともいえる気心の知れたお二人がそれぞれの意見を述べ合うなか、時に議論は白熱し、会場から相槌の言葉も聴こえてきます。
とりわけ、戦争を知る貴重な証言者であり戦後ジャーナリズムを作り上げてきた原さんのお言葉には、他にはない独特の重みがあり、会場に集まった皆さんの、一言一句聴きもらすまいとする姿勢がとても印象的でした。
質疑応答では、マスコミ界の伝説的存在である原さんに直接質問ができるということもあり、会場からもまた、深い議論を誘う本質的な質問が数多く寄せられ、「一流の質問者たれ」という原さんの言葉をその場で受け止めたかのような充実した内容となりました。

今回のイベント、議題についてはほとんどが『報道の正義、社会の正義』でも取り扱われたものですが、こうして生でお二人のお話を聴くと、また違った視点からジャーナリズムのあり方を考えるきっかけとなったような気がします。
読書という再現可能な体験だけでなく、その場に行かなければできない体験を提供することも、われわれ出版社の重要な役割なんだと改めて感じた夜。
今年は出版と連動したイベントにも、力を入れていきたいと思います。