『北朝鮮ポップスの世界』いよいよ発売!

今日3月17日は、待ちに待った『北朝鮮ポップスの世界』の発売日(取次搬入日)です!

この本は、北朝鮮情報では他の追随を許さないサイト・デイリーNK編集長で、テレビコメンテーターとしてもおなじみの郄英起さんと、音楽やカルチャー系ライターとしてめきめき台頭中のカルロス矢吹さんによる、本邦初の北朝鮮音楽に関する一冊となっています。

北朝鮮――今の北朝鮮体制をどう評価するか、国際社会における問題は何なのか、そういった政治的な視点をいったん外してみると、この国ほど謎に満ちて好奇心を掻き立てる場所も地球上にありません。
そしてそこに人が暮らす限り音楽が存在することを考えると、北朝鮮の人々はどんな音楽を聴いているのだろうという疑問が浮かんできます。
私たちがすぐにイメージするように、北朝鮮の音楽は基本的に体制主導で作られたプロパガンダ・ミュージックです。
でもそのことと音楽の良し悪しは別であり、21世紀において未だそういった音楽を追求し続けている北朝鮮は、少なくとも希少価値だけは有しているはずです。
こうしたフラットな視点から北朝鮮の音楽に触れてみると、そこには私たちが聴いたことのない音世界があり、同時に懐かしさを覚えるような旋律がふいに現れたりします。
そう、この興奮は、かつて世界的なブームとなり、ロック・ポップスにも多大な影響を与えた、ワールドミュージックのもたらす感動と同じではありませんか。
本書の帯には「ワールドミュージック最後のフロンティア」とありますが、この地球上に手つかずの音楽を見つけた驚きと喜びが、この本を作る最大のモチベーションとなっているのです。

とはいえ、現代の情報化社会において北朝鮮の音楽にアプローチすることは、少しも困難ではありません。
北朝鮮ポップスの世界』で紹介されている楽曲はすべて、YouTubeで鑑賞することが可能です(というか盤を手に入れることはできません……)。
どうぞこの本を片手に、パソコンやスマホをいじりながら、北朝鮮ポップスの世界に触れてみてください。
あなたが重度の音楽マニアであればあるほど、たぶんその感動はじわじわと、今まで感じたことのないものとしてやってくるでしょうし、もしそれほど音楽に詳しくない方でも、インパクト一発で持っていかれること請け合いです。

私がこの本を担当することを通じて触れた北朝鮮ポップスの印象ですが、これはひょっとして、クラブミュージックに近いものではないか、ということです。
クラブミュージックがロックのスターダムを否定し、オーディエンスのもとに音楽を取り戻す試みであるとするなら、北朝鮮ポップスの主役も、彼の国で暮らす老若男女なのではないか。
もちろん、歌の内容の多くは「将軍様万歳!」という個人崇拝のものですが、手練れのミュージシャンたちがステージでその技量を競い、大仰なまでの演出で届けられる壮大な音楽劇は、究極のアッパーミュージックとして“フロア”に降り注ぎます。
ステージとフロアが一体化し、「タンスメ」で踊りまくるおじさんたちの幸せな姿を見るにつけ、かつてのセカンド・サマー・オブ・ラブを想起したのはちょっと飛躍が過ぎるでしょうか。
少なくとも北朝鮮の音楽は、将軍様の素晴らしさを歌って(謳って)いながら、確実に聴き手の心を射抜くための音楽として作られているのであり、それがゆえに本書では北朝鮮「ポップス」という言葉を使っているのです。
もしかしたら、本書で紹介されているような音楽を楽しんでいるのは上流階級の人たちだけかもしれません。
だとしても、今や世界でも稀な独裁国家として孤立し、日々緊張感の中に生きているであろう北朝鮮の人々にとって、音楽は自らを鼓舞し力の源泉となるような、かけがえのないものなのだと思います。

私自身、北朝鮮ポップスを好きかどうかといえば、多分好きなタイプの音楽ではありません。
ただ、単純に「すげえ!」と思わせるものがあるし、その独自のあり方や意外にも備わっている同時代性など聴きどころは多く、はっとさせられる瞬間があります。
そう、これは面白い音楽なのです。
そして何より、北朝鮮ポップスを通じて、あの国に暮らす人々も自分と同じように音楽好きであり、音楽からいろんなものを受け取って毎日を乗り切っているのだと知るようになると、今まで記号としてしかとらえていなかった“北朝鮮人民”に、なんだか表情とか体温を感じるようになるのです。

この先北朝鮮体制がどうなるかは、国際政治の専門家でも読めないことです。
ただ、あの体制のもとでしか作られえないものがあって、それが音楽というかたちに結実している、しかもそれが日本で鑑賞できるということ。
ワールドミュージック最後のフロンティアに、本書を片手に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。
(佐藤)