【既刊紹介/都市論シリーズ②】 貞包英之『地方都市を考える――「消費社会」の先端から』

こんにちは、営業部の白井です。
都市論シリーズ第二回ということで、今回は貞包英之先生の『地方都市を考える』を紹介します。本書は、空き家や高層マンション、鉄道や自動車、メディアや観光まちづくり、ロードサイドビジネスやショッピングモール、そして流動化する労働など、現代的なテーマを扱いながら「消費社会の先端としての地方都市」を考える一冊です。

貞包先生はまず、地方都市についてできるだけ「邪念」なく考える、と仰います。その「邪念」の意味するところとは、「地方消滅」論や「地方創生」政策などといった喧しい議論があふれかえるなかで、「解決」を前提とした先入観が形成されているということです。
他方で、そもそも地方都市における暮らしはいかなるものなのか、そしてそれを支えているメカニズムはどのようになっているのか―――それらを捉えるべく、貞包先生は東北のY市をモデルにして社会学の視点から考察をされています。

私が思う本書の魅力のひとつ、それは「同時代性」ではないかと思います。貞包先生は、住居、移動手段、情報、商売といった地方都市における暮らしの<いま・ここ>をピンで留めるように的確に射抜きながら、さらにその背後に広がる歴史的な経緯までをも貫きます。そしてその際に用いられる定量的な統計データは、しばしば私たちの先入観が幻想であることを突きつけるように提示されます。
また、貞包先生の幅広い関心によって地方の表象としての文化が取り上げられ、例えば山内マリコの小説『ここは退屈迎えに来て』(幻冬舎)、阿部和重の小説『シンセミア』(朝日新聞社)、宮藤官九郎脚本のテレビドラマ『あまちゃん』、入江悠監督の映画『SRサイタマノラッパー』、富田克也監督の映画『サウダージ』などは、地方都市の問いと密接に関わる形で議論の俎上にあげられます。

地方都市に生起しつつある現在の動きを明らかにしようとする本書は、地方に対するイメージ先行の議論から離れて、自分たちが暮らしている社会を冷静に眺めたい人にとって最良の一冊だと思います。そして、現在から未来へ向けて社会を前向きに考えるためにも、貞包先生が言うように「ひとつのたたき台」として本書は役に立つはずです。


地方都市を考える  「消費社会」の先端から

地方都市を考える 「消費社会」の先端から