花嫁衣装は難しい

今日も、長机に置かれた紙を中心にスタッフ全員がたちつくす。みんなでため息。「うーん迷うね〜」全員が悩んでいる。デザイナーさんから送られてきた新刊の装丁カバーラフ案がどの案もすばらしく、まさに「甲乙付けがたい」からだった。

これまでゲラ上で著者と出版社を行き来していただけのものが、いよいよ印刷・製本され、本の形になって書店に並ぶ。一般的かどうかはわからないが、俗に「花嫁衣装」とも呼ばれる装幀は、これから旅立っていく本にきれいな衣装をまとってほしいという出版人の願いがこめられているようだ。

予算の関係もあって、デザイナーさんには資材にもいろいろ制約があるのを承知していただいてお願いしている。こういった内容だとこのデザイナーさんに……と社内で事前に話し合って、デザイナーさんを決め、来社いただき、1回の打ち合わせで、本の内容や出版意図、こんな読者に読んでもらいたい……などをぶつける。

「人は見た目が大事…」のような新書のタイトルがあったような気がするが、本にとっても「見た目」は内容と同じぐらいとても大切だ。「買う」ということだけに限定して考えれば、内容よりも大事と言っていいかもしれない。ジャケ買い、という事もある。とにかく買って家に持って帰っていただくものである。読者に「持っていて格好いい」と思ってもらえなければ、類書のなかで選んでもらえない。装丁は、本の運命も左右する。

ラフを出してもらって驚くのは、こちらの要望がすべて満たされていて、さらにプラスアルファ、「サムシング」が加わったものが形になって現れることだ。必ずこちらの想像や思惑をこえた「違う何か」に仕上がっていて、本に驚きとときめきが加わる。本ができるまでには様々な局面がある。私は、デザイナーさんにラフを出してもらったこの瞬間が、これまで社内と著者だけの内向きな「企画」に過ぎなかった本から第三者の批評が入るパブリックな「本」に生まれ変わる時だと思っている。

それにしても、衣装に3つも選択肢があるではないか!
同じタイトルで、同じキャッチコピーで、こんなに印象が違うなんて!B案と決めても、C案もA案も捨てがたい。3丁づけでカバーを印刷するなら、いっそのこと全部刷って、読者に好きなカバーを選んでもらうのはどう? と思ってしまうほど「捨てがたい」。返品で帰ってきたら違う衣装で出直すか? 花嫁衣装ならお色直しが出来るのだが、もちろん書店と読者の混乱を招くのでそんなことも出来ず、泣く泣く一種類を決定している。贅沢な悩み、の瞬間でもある。(近藤)