朝型出版人

著者の方などお仕事でやり取りをしている方から、私が送信したメールの時間を見て「ずいぶん早くから仕事してるんですね」と驚かれることがしばしばあります。私から朝の7時台にメールを出した場合が多いのですが、みなさん一様に「普通、出版社の人って夜型の人が多いですよね」ともおっしゃいます。確かに出版関係者のパブリックイメージとして、連日連夜の徹夜とか昼夜逆転の仕事スタイル、夜討ち朝駆けの取材などがあると思います。実際に私も、そういった生活パターンの出版関係者を何人か知っていますが、自分自身はまったくそれにあてはまりません。なぜかというと、(どうでもいい話になりますが)私が「書籍編集者」というカテゴリーに属しており、「雑誌編集者」や「記者」とは似て非なるものであるからです。われわれ書籍編集者にももちろん締め切りはありますが、あくまで社内的なもので、雑誌の発売日のように読者の皆様に周知されているわけではありません。また記者のように現場取材に行くこともなくはないのですが、それが日常というわけでもありません。
仕事スタイルがそうなので、おのずと生活も早寝早起きの規則正しいものになってきます。今年の夏は節電要請からサマータイムの導入が真剣に議論され早めの出勤が奨励されましたが、私は以前から6時台の電車に乗っていたため、図らずも早め出勤の定点観測をすることになりました。確かに震災以降、早い時間帯の電車は以前より混むようになり、現在もその傾向は続いているようです。世の中全体が早寝早起き型にシフトしつつあるとすれば、それは非常に歓迎すべきではないでしょうか。できるだけお日様とともに生きるほうが人間のバイオリズムに合っているように思いますし、何より健康的です。
出版の話に立ち返って考えても、私はこの仕事に従事するうえで、早寝早起き型のほうが理にかなっていると思います。確かに夜型で生きていると、ある種の感覚が研ぎ澄まされてくると思います。特に深夜に脳の活動をMAXにもってくると、実現性や制約、世間の目などが後退し、突拍子もないアイデアや構想が生まれやすくなるでしょう。何か新しいことを考えたり今までにない視点を獲得する、あるいはより深く物事の深層に迫っていくような思考に身を委ねるのに、深夜ほど魅力的な時間帯はありません。
しかし私たち出版人の仕事は、表現物を創るのではなく表現物を取り扱うことです。著者のほとばしるような熱情はそのままに、それを通りが良くなるよう「バリ」をとったり、歪みを治したり、味付けをマイルドにすること。「妄想ベース」というスタイルに最大限の共感と敬意を持ちながら、自らは「現実ベース」で頭と手を働かせること。編集者という「パッケージ屋」の感覚は、太陽が昇っているときに最高潮を迎えるようなある種健康的で現実的なもののほうが、仕事がうまくいくように思います。
と、あたかも仕事のための生活スタイルを装ってみましたが、週末は釣り場で夜明けとともに最高潮を迎える釣り人の私にとって、早寝早起きは単に趣味の余禄だったりもします。
(佐藤)