【新刊案内】林博史著『日本軍「慰安婦」問題の核心』

昨日の朝日新聞に、大きな特集記事が出ました。

慰安婦問題を考える)「慰安所は軍の施設」
公文書で実証 研究の現状、永井和・京大院教授に聞く

朝日新聞 2015年7月2日朝刊)

慰安婦慰安所の実態はどこまでわかってきたのでしょうか。1993年、当時の河野洋平官房長官は「河野談話」で、慰安所の設置、管理に旧日本軍が関与していたことを明らかにしました。警察や軍の公文書などの資料をもとに、慰安所は軍の施設として設置されたことを明らかにした永井和・京都大大学院教授ら歴史研究者に、「河野談話以降」の研究の現状について聞きました。
http://www.asahi.com/articles/DA3S11836618.html

この記事の掲載によって、再び「慰安婦」をめぐる議論が活発になっています。
記事の中でも

河野談話以降、新たな資料の発見が進み、慰安所での女性たちの境遇が慰安所業者の日誌で明らかになりつつある。昨年6月、国内で慰安婦問題に取り組む市民団体が、永井教授が分析した警察資料や戦犯裁判資料など538点が河野談話以降に見つかっているとして日本政府に調査を求めた。

とあるように、河野談話発表以後もたくさんの資料が見つかっています。
こうした資料を多数発掘・研究してこられた、林博史関東学院大学教授。これまでに発表された「慰安婦」関連の論考を1冊にまとめ、現在の日本が抱えるアクチュアルな問題に対して、どんな手段をとるべきか、各章に補論を書き下ろしいただきました。「慰安婦」をめぐる書籍の中で、間違いなく、一番の情報量であることを確信しつつ、『核心』というタイトルを入れさせていただきました。

さらにこの本の特色として、「慰安婦」問題を個々のケースの立証のみに終結させることなく、軍隊と性の問題、ジェンダーの問題など、その根幹に潜む問題にまで視線が届いている点が挙げられます。「なんだ、日本軍慰安婦の本だと思ったのに、他のことを書いているじゃないか」と思われる読者の方もいるかもしれません。しかし、だからこそ、この本の今日的な存在意義があるのだと思いながら編集に携わりました。

林先生たちが発掘された資料が多数収録されていますが、とりわけ第3部「歴史資料隠蔽と歴史の偽造」第2章「「慰安婦」など性的強制事件と軍による隠蔽工作」、第3章「ジャワ島における日本軍「慰安婦」等強制事件──ジョンベル憲兵隊ケース」はぜひ目を通していただきたいと思います。それまでの章などで、日本軍「慰安婦」制度の特徴などが頭に入っていたとしても、被害者たちの言葉によって明らかになったあまりに悲惨な「現実」に、編集中も正直気分が悪くなってしまいました。改めて、序章に記されたことば、

九〇年代に多くの市民がこの問題に取り組み始めたきっかけは、被害者が生きているうちにその名誉と人権回復を実現したいという思いからだったと言ってよいだろう。つまり、吉田清治証言が人々を動かしたのではなく、元慰安婦の女性たちが名乗り出たことが人々に衝撃を与え、戦後補償運動に駆り立てていったのである。その思いは、元慰安婦の女性たちが次々に亡くなり、高齢化している今日、ますます強くなっている。

の重みを感じました。


早くも都内某書店様では初回入荷分が売り切れ、補充注文をいただいています。多くの方に手にとっていただきたい1冊です。ぜひお読みください。(山)

日本軍「慰安婦」問題の核心

日本軍「慰安婦」問題の核心