【新刊紹介】矢吹晋『中国の夢――電脳社会主義の可能性』


 また更新が空いてしまいましたが、新刊のご案内です。

矢吹晋『中国の夢――電脳社会主義の可能性』

中国の夢――電脳社会主義の可能性

中国の夢――電脳社会主義の可能性

 矢吹晋横浜市立大学名誉教授の、弊社での刊行書籍もこれで10冊目となりました。


 さて、去年の6月に刊行した前作、習近平の夢――台頭する中国と米中露三角関係』が、第5回「岡倉天心記念賞」最優秀賞を受賞し、年末に福田康夫元総理もお迎えして、(かつては孫文も常連だった)日比谷・松本楼にて華々しく授賞式が開かれました。

習近平の夢――台頭する中国と米中露三角関係

習近平の夢――台頭する中国と米中露三角関係


 この本は『炎と怒り』もびっくりな、トランプ大統領の売春婦スキャンダルや、ロシアの選挙介入などについて、ものすごい情報量を詰め込んだもので、国際善隣協会さんでは毎月、この本を用いた勉強会「善隣中国塾」が開かれています。
 授賞式の後に、先生と、弊社代表の平田、そして私とが、有楽町のガード下の居酒屋でささやかな二次会を開いていた際に、矢吹先生がスマホ(いつも最新のiPhoneiPad、AppleWatchを持っていらっしゃいます)を取り出して、「いま中国では、こうした居酒屋でもその場でQRコードで『ピッ』と決済をするんだよ」と教えてくださいました。
(私は小学校で習った「中国は、天安門広場の前の大量の自転車」というイメージがどこか頭にのこってしまい、今や日本よりも物価が高い地域もある中国の「現在」について、疎い部分があるので、これもびっくりしてしまいました。去年(航空券を買い間違えて)二度も香港へ行き、現地の「Suica」のようなカード(オクトパスカード)を「便利だなあ」と使っていたのですが、矢吹先生に言わせると、「中国本土では『香港人は現金を使う』というジョークがあるぐらい、スマホ決済が普及している」そうです。)

 QRコードの話から、「いま中国では、『電脳社会主義』が進行している」とつながり、そうして構想がまとまったのが、今回の新刊『中国の夢』です。
(前置きが長くなりました。)

 「『中国の夢』とは、IT 革命からET 革命(Embedded Technology Revolution)への転換を全世界に先駆けて疾走することによって実現されるであろう。(…)この技術は地球環境の「制約条件下での持続的発展」を可能にし、現代人の生活需要を満たしうる点で実現可能性をもつ。現代社会主義は21 世紀初頭の今日、人類史上初めて、それを実現する生産力の基盤を備えたことになる。
 ビッグデータの活用によって中国経済はいま新たな発展を模索しているが、この「中国モデル」(Digital China =数字中国)は、特殊中国的なものではなく、普遍性をもつ。それは、ジョージ・オーウェルの危惧した「ビッグブラザーの独裁」に陥る危険性、すなわち「デジタル・リヴァイアサンという怪物」に食い殺される危険性を伴うが、他方、その担い手に公正と正義(Fairness and Justice)あるいは国際正義(International Justice)の精神を伴うならば、人工知能(AI)の力を借りて怪物を飼い馴らし、人々の生活に奉仕させる、新しい『もう一つの可能性』も秘めている。」(本文より)


 矢吹先生は学生時代、60年安保で亡くなった樺美智子さんと仲が良かったそうです。彼女との論争もあった中で、当時、先生の疑問であったのは、社会主義国で必然的に芽生えてしまう官僚制をどう克服できるのかということだったように聞いています。
 「学寮の一室『中国研究会』時代から『コンピュータなくして社会主義なし』と口角泡を飛ばしてきた(「あとがき」より)」そうですが、例えば、習近平が「虎もハエも」と、血眼になって追放した汚職も、ビッグデータが集まればAIによって自動的に徴税ができるなど、システム改革によって一掃できる可能性があるのです。これも、矢吹先生が今回書かれた「電脳社会主義の可能性」の一例です。
 「中国の夢」という言葉自体は、2012年に習近平が発表した、「中華民族の偉大なる復興」を掲げる統治理念ではありますが、本書ではもっと大きく、中国においてET[組込み総合技術]革命が進むことにより、社会主義の限界を突破できるのではないかという矢吹先生自体の夢が含まれています。
 しかし、同時に、ビッグデータの集積により、ジョージ・オーウェル1984年』のように国家が国民を管理する危険性(デジタル・リヴァイアサン)も高まる可能性もあります。
 本書では、その両方の可能性について、十九大で示された中国の経済政策や、電気自動車への転換、ビッグデータの管理体制、中国の官僚制(ノーメンクラーツ=名簿も収録しています)、文化大革の教訓、などから分析しています。
 ぜひ幅広い方にお読みいただきたい、そして感想をお聞きしたい一冊です。3月中旬発売予定。ご高覧のほど、よろしくお願いいたします。

 (山口)